安全?安心、そして最高のサービスを
帝国ホテル 東京 総支配人
金尾 幸生(かなお ゆきお)さん
-ホテルの総支配人というのは どんな仕事ですか。
ホテル運営の総責任者です。サービスのクオリティを常に最高の状態に保つこと、ホテルの売り上げをつくること、この2つが大きな役割です。そして、あまり意識されることはないかもしれませんが、ホテルはお客様の命と財産を預かるところでもありますから、安全と安心を提供するのが最優先です。通常時だけでなく、東日本大震災のような災害時においては、ホテルご利用のお客様だけでなく、帰宅困難者の受け入れなど、公的な受け皿としても機能します。さまざまな想定をして、その体制を整え続けなければなりません。
また帝国ホテルは、あらゆる国籍?文化?年齢のお客様がご利用されます。お客様の価値観やニーズなどを瞬時に把握し、最高のサービスを提供するため、日頃よりトレーニングにも力を入れています。
-社会工学類のご出身ですが、理系でホテルに就職って珍しいですよね。
確かに、友人のほとんどは、建築や製造業などの分野に就職しましたけど、そういうのは自分の肌には合わないなと思っていたんです。他人と同じ道に進むのも好きじゃなくて。そんな時、空間から付加価値を生み出して販売に結びつけるホテル業に興味を持ちました。入社後に知りましたが、建物や施設などのメンテナンスなんかもありますから、理系の人材もいるんですよ。
入社してからはまず、3ヶ月おきに、ホテルの基本的な4つの仕事、ハウスキーピング(客室清掃)、ベルマン(荷物運び)、レストラン(ウェイター)、調理(鍋洗いや下ごしらえ)をやりました。その後、上高地帝国ホテルでの実地研修で、ホテルの全体像を勉強しました。社会人になったのにスーツを着ることもないし、土日も休めないし、今みたいにメールやラインもないので、友人とは疎遠になってしまいましたね。1年3か月後の本配属はフロントでした。
-イメージとはちょっと違ったようですね。ところで筑波大はイメージ通りでしたか。
実は理科はそんなに得意ではなかったので、大学では理系と文系をミックスしたような経営工学を学ぼうと考えました。経営工学は、当時の国立大学では必威体育_足彩比分直播-娱乐app官网しかなくて、開学間もないキャンパスにも魅力を感じました。東京から60キロだったら都心にも出やすいだろうし...思いっきり間違ってましたね。
常磐線の土浦駅を降りたら、パチンコ屋から流れる盛大な軍艦マーチの歓迎を受けました。そこで、あれ、と思って、さらにバスに乗って行くと、なんか違う、と。九州から来たので、田舎であることに違和感はありませんでしたが、今の比じゃない、あれこそ陸の孤島ですよ(笑)。でも、全国からいろんな学生が集まっていて、陸の孤島だからこそのコミュニティがあって、面白かったです。
カリキュラムは新しい大学ならではの学際的なものでした。当時は珍しかったコンピュータを好きなだけ使えたり、チームで動画を作ってプレゼンしたり、極めて実践的な実習があったので、今思うと、とても充実した学生生活を送れたと思います。
-老舗ホテルをこれからどのようにしていきたいですか。
帝国ホテルは1890年に、外国から賓客をお迎えする、迎賓館の役割をもって開業したホテルです。隣には鹿鳴館があったんですよ。以来、たくさんの国内外のお客様にお使いいただいています。
そんな歴史のあるホテルですが、2024年から新しく建て替える計画です。全て完成するのは2036年の予定。建て替えの間、ホテルの営業をどのように継続していくか、また建て替え後にいかに多くのお客様に戻ってきていただくかが、大きな課題です。歴史?文化的にも価値のある備品などのホテルの財産を保存する計画も進めています。完成する頃には私自身はもう退職していますけど、しっかりと次の世代に引き継ぐ役割を果たしたいです。
-最後に、筑波大で学ぶ後輩たちにぜひメッセージを。
私が学生の頃は、インターナショナルの時代だから国際社会に目を向けよう、と言われましたが、今やグローバルな時代。国と国との境がなくなって、一つの地球村みたいなところで生きています。ネットが発達して、バーチャルにいろいろ体験することもできますが、ぜひ、日本から出て自分で実際に見て、聞いて、人と付き合って、いろんな世界があることを知ってほしいですね。将来必ず役に立ちます。私自身、3年生の夏にイギリスにいた叔父を訪ね、そこを拠点にあちこち旅をしたことや、仕事でウィーン、ロンドン、ニューヨークに赴任した経験が、今になってとても生きていると感じています。学生の皆さんは、社会人よりも時間も気力も体力もある、それは人生の最大のアドバンテージです。
PROFILE かなお ゆきお
1961年 京都府生まれ
1984年 社会工学類卒
1984年 帝国ホテル入社
1997年 ロンドン案内所支配人
2000年 ニューヨーク案内所支配人
2017年 取締役常務執行役員東京総支配人
関連リンク
TSUKUCOMM Vol.56